改めて知る、コーヒー2050年問題

改めて知る、コーヒー2050年問題

Standart Japan第19号のメインスポンサーを務めてくれたTYPICAは、麻袋1袋からダイレクトトレードできるプラットフォームを通じて、コーヒーの「2050年問題」に取り組んでいます。 

Standart Japanの週間ニュースレターThe Weekend Brewでも度々取り扱ってきたこの2050年問題。「言葉は聞いたことがあるけど、実際のところ詳細はよく分かっていないな……」というあなたのために、この記事では最新の研究を引用しつつ、2050年問題の中身や、TYPICAがこの問題にどう取り組もうとしているかについてご紹介します。

 

コーヒーの2050年問題とは?

世界で消費されるコーヒーの約7割を占めるアラビカ種の栽培に適した土地が、気候変動の影響によって2050年には半減するという予測——これが一般に「コーヒーの2050年問題」と呼ばれています。

 

なぜ2050年なのか?

そもそもなぜ2050年が節目になっているのでしょうか。その最大の要因として、気候変動にまつわる話でよく話題にあがる「パリ協定」が関係しています。2015年にフランス・パリで開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)で以下の長期目標が掲げられました。

  • 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
  • そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる

     後者は温室効果ガスの排出量と吸収量が均衡する、いわゆる「カーボンニュートラル」な状態を指しており、21世紀の折り返し地点である2050年はさまざまな気候変動に関する取り組みで節目の年と考えられているのです。

    しかし、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による2021年8月の報告書では、今後数十年のうちに1.5°Cの地球温暖化を超える可能性が示唆されており、温室効果ガスの排出を直ちに、急速かつ大規模に削減しない限り、温暖化を1.5°C近くに抑えるどころか、2°Cに抑えることさえ現実的でなくなることが明らかになりました。

     

    具体的にどんなことが予測されているのか?

    気候変動によってコーヒー生産にはどのような影響があるのでしょうか?

    昨年発表の「気候変動によるコーヒー、カシューナッツ、アボカドの栽培適地の変化予測(Expected global suitability of coffee, cashew and avocado due to climate change)」と題された論文の内容を抜粋しながらその影響を見ていきましょう。

    先述のIPCCは温室効果ガスの排出量ごとに将来どの程度気温が上昇するかをモデル化しており、本研究ではIPCCのモデル3種(RCP2.6:排出量少、RCP4.5:排出量中、RCP8.5:排出量多)に沿って、コーヒー、カシューナッツ、アボカドの栽培地がどのように変化するかがまとめられています。

    まず、対象となった作物の中でもコーヒーは気候変動の影響を最も受けるであろうということが明らかになりました。そしてコーヒー生産量の世界トップ3であるブラジル、ベトナム、コロンビアの数字を見てみると、現在最もコーヒーの栽培に適しているとされる地域のうち、排出量が最も少ないケースであっても45%〜75%の適性地面積の減少が示唆されており、排出量が最も多いケースでは3か国とも8割近い水準(ブラジルにいたっては97%)までコーヒーの栽培に適した土地が減少するとされています。 

     

    世界および主要生産国のコーヒー栽培に適した地域(S1:非常に適している、S2:中程度に適している、S3:少し適している、N:適していない)について、3つの排出量モデル(RCP 2.6:低排出、RCP 4.5:中排出、RCP 8.5:高排出)下での現在(2000年)と将来(2050年)の比較。それぞれの減少、増加幅は%で表示。
    「Expected global suitability of coffee, cashew and avocado due to climate change」のデータを元にStandartが作成。

    何が起きるのか?

    「栽培に適した土地ではなくなる」とは、具体的には気温上昇や降雨量の変化による収量の減少やコーヒーの品質の低下を、最終的には現在コーヒー栽培に携わっている人たちの収入の減少を意味します。

    そのため、少なくとも今の農法や品種を維持したままコーヒーを栽培することが難しくなり、コーヒー栽培自体を諦めざるを得ない状況に追い込まれる生産者も増えていくと考えられています。

    すると資金的な体力のある大規模農園や、グローバル企業の契約農園でしかコーヒーは生産できなくなってしまい、現在私たちが楽しんでいるような多種多様なコーヒーは店頭から消え去ってしまう可能性があるのです。

    生産国ではすでにその影響が表面化しつつあります。コロンビアの一部地域では、雨期と乾期の極端化による収量の減少が報告され、ホンジュラスやエルサルバドル、グアテマラ、ニカラグアではコーヒー栽培では家計を支えられないことから、アメリカへの密入国を図るケースも増加。つまり2050年を待たずとも、コーヒー生産の現場ではすでに変化が起き始めているのです。

     

    流通革命というアプローチ

    何世代にもわたって生産に携わってきた、コーヒー栽培を生きがいにする農家の人々がこれからもコーヒーを作り続けるためには何ができるのか? TYPICAはコーヒー豆の流通に注目しました。

    これまでいくら手間暇かけてコーヒーを育てたとしても、国外市場へアクセスすることができなかった小規模コーヒー農家は、国内の協同組合やエクスポーターに先物価格に基づいた売値で生豆を販売するしかありませんでした。そのせいで先行投資はおろか、生産コストや生活費さえ賄えないケースも散見し、気候変動のような大きな変化に適応するために必要な資金を捻出できない状況にあります。

    また、従来の制度ではどれだけ個性豊かなコーヒーを栽培したとしても、豆のサイズや栽培地の標高、欠点数など画一的な基準に沿って値付けされるため、おいしいコーヒーを作るためのモチベーションが湧きづらい仕組みになってしまっていました。

    そこでTYPICAは、価格決定権を生産者に委譲し、ロースターが焙煎豆をカフェや生活者に売るときのように、自分たちで価格を決定できるメカニズムを導入しました。これにより生産者は本来あるべきように、生産コストや翌年以降の投資額を勘案しつつ、品質に見合った価格でコーヒーを販売できるようになりました。また高品質なコーヒーを適正な価格で販売できるようになることが、よりおいしいコーヒーを生み出そうという気持ちの原動力、つまりはおいしいコーヒーの持続可能性へと繋がっていくのです。

    TYPICA誕生の背景や、プラットフォームの仕組みについてはオンライン記事()にて、またStandart Japan第19号の特集記事では、TYPICAが解決しようとしている問題の詳細についてご紹介していますので、そちらも併せてご覧ください。

     

    この記事は、Standart Japan第19号のスポンサーTYPICAの提供でお届けしました。